営業の話し方というと、切り返しやトーク例を増やす話になりがちです。ただ、私はそれより先に見ているものがあります。お客様が話す速さです。
声の高さ、話すペース、声量。この三つは営業中にかなり注意して見ていますが、一番重要だと考えているのは話すペースです。小さい声でゆっくり話す方へ早口で説明しても、こちらだけが先へ進んでしまいます。逆に、結論を早く知りたい方へ長い前置きを続けても、会話はかみ合いません。
私は20歳から訪問販売を始め、23歳頃からは先物取引を含む投資関係、その後は不動産仲介と、扱う分野を変えながら約20年営業をしてきました。振り返ると、話法や扱う商品が変わっても、人と話すときに見る根本はそれほど変わっていない、というのが私の実感です。
結論:うまく話すより、相手のペースをつかむ
私が最初に意識する順番は、次の通りです。
- 相手の話すペースを見る
- 声の高さと声量を見る
- 相手が使う言葉を、こちらも使う
- 複数人なら、誰に話しかけているかを見る
- 商談後に自分の偏りを振り返る
「ゆっくり話せばよい」「明るい声ならよい」と一つの正解に固定はしません。お客様は毎回違うからです。合わせることは、相手をまねる演技ではありません。自分の説明を押し通さず、相手が話しやすい速度へ調整することだと考えています。
1. ゆっくり話す方には、こちらも急がない
相手が小さい声でゆっくり話す方なら、私も普段よりゆっくり話します。質問をした後も、こちらで間を埋めようとしません。
営業は、沈黙ができると焦ることがあります。私も説明を足したくなることがあります。ただ、相手が考えている途中にこちらが話し始めれば、本来聞けたはずの話を止めてしまうかもしれません。
見るのは、返事が遅いかどうかではなく、その人がもともとどのくらいの速度で話す方かです。迷っているのか、言葉を選んでいるのか、単にゆっくり話す方なのか。私はすぐに決めつけず、まず自分の速度を落として会話の様子を見ます。
2. 早く進めたい方には、前置きを短くする
反対に、せっかちで「先に結論を知りたい」という方には、端的に伝えます。結論、理由、必要なら詳細という順番です。
ここで大事なのは、早口でまくしたてることではありません。相手が知りたいところへ早く到達することです。同じ説明でも、ゆっくり検討したい方と、要点をつかんで次へ進みたい方では、順番と長さを変えます。
私は営業中、お客様の変化に合わせることへ集中しています。最初は早かった方が、金額や条件の話になると急にゆっくりになることもあります。そのときまで同じ勢いで進めず、相手の速度が変わったところでこちらも一度止まります。
3. 声の高さ・声量と、相手が使う言葉を合わせる
話すペースの次に見るのが、声の高さと声量です。
相手が落ち着いた小さな声で話しているのに、こちらだけ大きな声で明るく話し続ければ、熱意より圧を感じさせる可能性があります。一方で、相手がテンポよく話しているのに、聞こえにくいほど声を落とせば、話が進みません。
私は相手とまったく同じ声を作ろうとはしません。少し寄せるくらいです。わざとらしく合わせると、相手を観察することより「技術を使うこと」が目的になってしまいます。
ミラーリングという言葉自体は新しくありません。私が営業を始めた頃から知られていました。人の会話の根本は急には変わらない、というのがこれまで現場に立ってきた私の実感です。ただし、心理効果を狙って相手を露骨にまねるものだとは考えていません。
私が合わせるのは、話すペース、声の高さ、声量だけではありません。相手が使った言葉も、なるべく同じ言葉で返します。相手が「比較」と言えば、こちらも「比較」と言う。こちらの業界用語へ勝手に置き換えず、同じ言葉を使いながら認識を確かめます。
4. 家族が同席する商談では、決定権者だけを見ない
ご主人、奥さん、子どもが一緒にいる商談では、決定権を持つ方にばかり話しかけていないかも注意します。
家を買う場面では、親御さんが子どものことを大切に考えている家庭も多くあります。だから私は、子どもを「商談に関係のない同席者」として扱わないようにしています。名前を聞いたら覚え、無理のない範囲で会話の中で呼びます。
自分の名前も、最初に名乗って終わりにはしません。「私ならこう考えます」「分からないことがあれば私に聞いてください」と、会話の中へさりげなく入れます。覚えてもらうためですが、それ以上に、家族全員と一つの場を作る感覚に近いです。
もちろん、すべての家庭が同じ反応をするわけではありません。子どもへの声かけを好まない方もいます。名前を連呼したり、無理に距離を縮めたりせず、表情や返答を見ながら加減します。
5. 録音では「何を言ったか」より、自分の偏りを聞く
話し方は、商談中の感覚だけでは振り返りにくいものです。私は録音を、正しい話し方をAIに採点させるためではなく、自分の偏りへ気づく材料として使います。
最初に聞くのは、話す速さです。相手がゆっくりなのに自分だけ早くないか。質問の後に待てているか。次に、声量、割り込み、複数人への話しかけ方を見ます。
以前、夫婦で来られたお客様との会話を見直したとき、どちらか一方へ話が偏っていたことに気づきました。商談中は全員と話しているつもりでも、後から聞くと偏りは見えます。これはAIが顧客の本音を当てた話ではなく、私自身の話し方を確認できたという話です。
録音を使う場合は、対象と目的、会社のルール、相手への通知や同意、保存先を先に確認します。文字起こしや要約も正解として扱わず、気になる箇所は元の音声へ戻ります。
詳しい振り返り方は、商談の振り返りを次回の一問へ変える5手順で整理しています。録音前の同意や保存については、営業で録音データを扱う前に確認したいことも先に確認してください。
話し方を直すなら、一度に全部ではなく「速さ」から
営業の話し方には、言葉選び、質問、説明の順番、表情など多くの要素があります。全部を同時に直そうとすると、私はお客様の話へ集中できなくなります。
だから、最初は一つだけです。相手と自分の話す速さが合っているかを見る。次の商談では、そこだけを意識する。慣れてから声の高さや声量、相手が使う言葉、複数人への注意へ広げます。
録音から振り返る場合も同じです。最初からAIに総合評価を求めるより、まず「相手より速く話している場面はどこか」を人が確認した方が、次の行動を決めやすくなります。
録音機器を使って自分の話し方を振り返りたい方は、営業向けAIボイスレコーダーの選び方で、通話・対面・リアルタイム文字起こしの優先順位から確認できます。
よくある質問
営業では、ゆっくり話す方がよいですか?
常にゆっくりが正解とは考えていません。ゆっくり話す相手にはこちらも急がず、早く要点を知りたい相手には前置きを短くします。基準は自分の型ではなく、相手の会話のペースです。
声のトーンは高い方が印象はよいですか?
高さだけでは決めません。声の高さ、声量、話す速度をまとめて見ます。明るさを作ることより、自分の声だけがその場で浮いていないかを確認します。
相手に合わせると、まねしていると思われませんか?
完全に同じ動きや声を再現する必要はありません。私は少し速度を落とす、説明を短くする、声量を抑えるほか、相手が使った言葉をなるべくそのまま返します。技術を見せることではなく、相手が話しやすく、認識を確かめやすい会話へ調整することが目的です。
録音がなくても話し方は改善できますか?
できます。商談後に「相手は速かったか、ゆっくりだったか」「質問の後に待てたか」「誰に話しかけていたか」の三点だけをメモしても振り返れます。録音は記憶だけでは分からない偏りを確認する補助です。

